原稿の赤字に「専門用語なので削除」とあり、その横に技術者が「消すと別物になる」と書き戻す。製造業の原稿では、どちらも間違いとは限りません。
争点は言葉の難しさではなく、その語を図面の照合や発注判断に使うかです。用語を消した結果、材料、工程、測定方法のどれを指すのか曖昧になることもあります。
原稿中の用語は、「そのまま残す」「初出だけ説明を添える」「意味を確認して公開語へ直す」「今回の判断に不要なら削る」という四つの処理へ分けます。同じ用語でも、読者と記事の目的が変われば処理は変わります。
専門用語の扱い方
専門用語は一律に減らさず、「残す」「初出で補足する」「公開向けの言葉へ直す」「不要なら削る」に分けます。
専門用語を消すと、かえって判断しにくくなる
例えば「三次元測定機(座標測定機/CMM)」を「高性能な検査機器」と書き換えると、設備の種類が分からず、「高性能」という根拠のない評価だけが残ります。「SUS304」を「ステンレス鋼」とだけ書けば、鋼種の指定が失われます。
日本ステンレス協会も、ステンレス鋼には多くの鋼種があり、「ステンレス鋼」という表示だけでは種類を特定できないと説明しています。ただし、SUS304という記号だけで製品形状や仕上げまで決まるわけではありません。案件に必要な条件は図面や仕様書へ戻って確認します。
正式な設備名、材料記号、工程名、測定項目は、図面や仕様書との照合、検索、相談先の選定に使われます。言い換えることで対象が変わる言葉は、専門的でも残す方がよいでしょう。ただし、名称を置くだけでは、自分の案件に関係するかまでは判断できません。
「対応可能」という言葉を材質や形状などの条件へ分ける方法は、技術力を「対応条件」で伝える記事で扱いました。今回は、その条件をどの言葉で読者へ渡すかに絞ります。
用語を四つの処理に分ける
専門用語か日常語か、という二択にすると迷います。原稿中の言葉へ線を引き、次の処理から選びます。
| 処理 | 選ぶ条件 | 例 |
|---|---|---|
| そのまま残す | 置き換えると対象や条件が変わる | SUS304、正式な工程名、測定項目 |
| 初出だけ説明を添える | 判断に必要だが、隣接部門には伝わりにくい | 三次元測定機(X・Y・Zの座標で位置や形状を測る設備)、加工物(ワーク) |
| 意味を確認して公開語へ直す | 社内では通じても、外部から対象を特定できない | 「A品」「旧型」「いつもの検査」を正式な製品名や工程名へ直す |
| 今回の判断に不要なら削る | なくても対象・条件・手順が変わらない | 社内の案件コード、本文で使わない略語の列挙 |
社内呼称は、単に正式名称へ置き換えれば済むとは限りません。「旧型」が製品の世代を指すのか、設備を指すのか、古い図面を指すのかを先に確認します。意味が確認できない言葉は、もっともらしい説明で埋めず、原稿の確認事項として残します。
読む人が変われば、必要な補足も変わる
例えば「三次元測定機で検査する」という一文でも、設計担当者には測定対象と公差、購買担当者には検査記録の提出範囲、営業担当者には回答前に必要な図面や仕様を補います。全員向けの情報を一度に足すのではなく、この記事で主に助ける一人を選びます。
すべての用語に辞書のような説明を付けると、詳しい読者には冗長で、初めて読む人には要点が見えません。最初に、この記事を誰がどの判断に使うかを決めます。誰の判断を助ける記事かを決める方法と同じ考え方です。
正式な用語で検索する読者もいます。見出しや最初の記述では正式語を残し、必要なら直後に短い説明を置く。その後は同じ説明を繰り返さない、という形なら、用語の正確さを保ちながら読み進められます。
ただし、正式語をまだ知らない読者が入口で使う言葉は、用語の補足とは別に拾います。問い合わせや営業記録から呼ばれ方を集め、正式名称と同じページでつなぐ手順は、顧客の言葉を製品ページへつなぐ方法で扱っています。
辞書の説明より、案件との関係を一文足す
専門用語を残すと決めても、由来や一般定義から長く説明する必要はありません。読者が知りたいのは、その用語が発注、設計、検査のどの判断に関係するかです。
次は一般的な書き換え例です。
変更前
幾何公差に対応します。
変更後
幾何公差への対応は、加工と検査のどちらを指すか分けたうえで、公差の種類・値・基準(データム)の有無などの図面指示と、評価・測定方法を確認して回答します。
「幾何公差」という語は残し、回答前に確認する内容を加えています。「ワーク」は初出で「加工物(ワーク)」と補足できます。「チャッキング」が把持方法の判断に関わるなら、「チャッキング(チャックで加工物を把持・固定すること)」と補足して残します。固定方法を問わない説明であることを技術者に確認できた場合だけ、「加工物を固定する」と直します。
変更した用語だけ、公開前に記録する
用語を直した箇所は、変更履歴を一行ずつ残します。「元の表記/公開用の表記/変更理由/技術確認者/公開可否」の五項目です。原稿全体の確認に加え、意味が変わるおそれのある箇所へ確認を集めます。
確認するときは、次のように役割を分けます。
- 技術者:公開用の表記で意味や適用条件が変わっていないか
- 編集担当:初出の補足だけで、案件との関係を追えるか
- 公開責任者:社内呼称や顧客情報が残っていないか
数値、単位、規格名の照合は、用語の書き換えとは分けて行います。確認担当の決め方は、製造業の技術記事を事実確認する方法で整理しています。
まとめ|削る前に、その言葉の役割を決める
専門用語は、減らした数で文章の良し悪しが決まるものではありません。対象を特定する語は残し、初出の補足が必要かを決める。社内呼称は意味を確認して公開語へ直し、今回の判断に使わない語だけを削ります。
最初に直すなら、一つの記事から専門用語へ線を引き、「この言葉は何の判断に使うのか」を確認してください。答えられない言葉だけでも、削除、補足、社内確認のどれへ回すか決められます。
元原稿に残すべき専門用語で迷う場合は、掲載先と意味を確認できる資料を添えて、専門用語の扱いをご相談ください。
