試験で得たひずみとCAEの結果が合わない。そこで材料のヤング率を少し変え、固定面を広げ、画面の数字を試験値へ寄せる。操作としてはできます。しかし、その前に「同じものを比べていますか」と尋ねたいのです。
たとえば、実物のひずみゲージはブラケットの表面で、ある方向の、測定グリッドにわたる平均的なひずみを拾います。一方、画面に表示したのがモデル全体のミーゼス相当応力の最大値なら、測定したひずみとは物理量も位置も異なり、数値の一致・不一致を論じられません。単位をそろえるだけでは比較できません(HBK「Measurement Accuracy in Experimental Stress Analysis」)。解析モデルを変更する前に、試験とCAEの量・位置・方向・荷重・支持を同じ一枚の照合票へ書き出します。照合票がないまま入力値を変えると、どの仮定が差を埋めたのか追えなくなります。
ここでは壁に取り付けた架空のL字ブラケットを使い、腕先端を押す試験を考えます。数値や一致率は示しません。目的は「合うモデル」を演出することではなく、なぜ違うかを検証できる状態にすることです。
最初に「何と何を比べたか」を一行でそろえる
「解析値と実測値が違う」だけでは、まだ原因を考えられません。先に、比較している出力を具体化します。試験で測ったのは腕先端の変位か、取付部のひずみか、試験機の荷重か。CAE側は同じ位置、同じ方向、同じ荷重時点の値か。変位なら初期位置からの差か、試験機のクロスヘッド移動量か。後者には治具のたわみやすきまが含まれる可能性があります。
ひずみゲージなら、貼付位置・表裏・ゲージ軸の方向・測定グリッド長を記録します。CAEからは同じ面と方向のひずみを取り、ひずみの勾配が大きい場所では測定グリッドに対応する範囲でどう集計したかも示します。ゲージが拾うのは測定グリッドの一点の最大値ではないためです(HBK)。ひずみゲージの一方向の値と、モデル中の別位置の最大ミーゼス応力を直接比べない。NASAの試験と解析の比較例でも、異なるひずみ計測手段を比較しやすいよう、ほぼ同じひずみとなる近接位置を選んでいます(NASA「Longitudinally Jointed Edge-wise Compression…」)。
- 量と単位:試験側は荷重、変位、ひずみのどれを測ったか、ゼロ点と符号を記す。CAE側は同じ物理量・成分・単位・基準時点の出力を取り出す。
- 位置と方向:センサの位置、表裏、測定軸、ゲージ長を残す。CAE側でも同じ座標と方向、対応する抽出範囲を指定する。
- 荷重:試験機の指令値だけでなく実測値、作用点、速度・履歴を残す。CAEには実物に伝わった荷重と作用面・方向を対応づけ、静的近似の可否を確認する。
- 支持:治具、ボルト、座面、接触、すきまを記録し、CAEでモデル化した支持と省略した支持を並べる。
- 実物:製作寸法、材料、板厚、締付け状態を記録し、CAEのCAD・材料定数・初期状態の版と突き合わせる。

照合票の空欄を「一般的な値」で埋めて合否へ進まないことです。測っていない量は測っていないと書き、モデル側で仮定した量も仮定として残します。
全体の荷重―変位が違うなら、局所ひずみへ急がない
ブラケットの先端を押したとき、まず試験機で読んだ荷重と、ブラケットの同じ位置で測った変位の関係を見ます。同位置の変位を測っていなければ、試験機のクロスヘッド移動量をブラケット先端の変位として代用せず、治具のたわみを含む別の量として扱います。小さい荷重から同じ傾きで増えるか。途中で傾きが変わるか。荷重を戻したとき同じ道を戻るか。ここに違いがあれば、局所の応力値を合わせる前に、全体の剛性や接触状態を疑います。ただし、非線形や履歴の理由をこの線一本だけで決めつけることもできません。
実際のNASAの試験・解析照合では、ひずみゲージ値の比較に入る前に、全体の荷重―変位応答が再現できない問題がありました。調べた結果、剛体とみなした試験治具側の支持が実際にはたわむことが重要でした(NASA「Test-Analysis Correlation of the Single Stringer Bending Tests」)。この事例から一般製品に同じ原因を当てはめることはできません。ただ、局所値より先に試験全体の力の通り道を見るという順番は参考になります。
解析側では、作用荷重と支持反力について各方向の力がつり合うか、偏心荷重があればモーメントもつり合うか、さらに変形方向が試験で見たものと整合するかを確認します。力とモーメントの釣り合いはモデル設定の基本点検で、Autodeskもその用途を示しています(Autodesk「Reactions results」)。ただし、つり合うことは、治具やボルトを正しくモデル化できた証明ではありません。
入力条件は「指令値」ではなく「試験で起きたこと」に戻す
試験機に設定した荷重と、実物に伝わった荷重が同じとは限りません。ロードセルの位置、押し子の接触面、荷重点のずれ、摩擦、治具の自重、試験中の姿勢を確認します。腕先端に垂直な力だけを与えたつもりでも、押し子が滑らず、偏心した位置で押していれば、別のモーメントも生じます。試験の写真や取付図に、実測値と荷重経路を重ねて記録すると話が早くなります。
荷重を加える速さも条件です。静解析との比較なら、試験の応答が静的に扱えるかを先に検討します。衝撃、振動、急な接触切替えを、単にピーク荷重だけ取り出して静解析へ入れても、同じ現象を再現したことにはなりません。これは荷重ケースの記事で述べた「使用場面から条件を作る」作業の、試験版です。
支持も現物から読み直します。壁にボルト留めしたつもりの試験体が、実際には試験治具の板に取り付いているなら、その板の曲げやボルトの締付けが効く可能性があります。モデルでは取付面を完全固定していないか。実物にあるすきまや座面の浮きを省略していないか。支持の仮定と判定できる範囲は、拘束条件の記事を参照してください。試験と解析で支持条件が違うまま材料定数を調整すると、治具の影響を材料の誤差として吸収するおそれがあります。
全体は近いのに局所だけ違うなら
全体の荷重―変位が概ねそろっても、あるゲージだけ外れることはあります。この段階で、ゲージの貼付方向や位置、配線・温度補償・ゼロ点、貼付した面の状態を確認します。配線や温度、ゼロ点の扱いは測定誤差の原因になるため、計測系の設定記録も見直します(NI「Measuring Strain with Strain Gages」)。曲げが支配的な場所では、表と裏でひずみの符号が逆になることもあります。センサが数ミリずれただけで、勾配の大きい部位なら値が変わり得ます。一回の読みだけでなく、可能なら繰返し測定でばらつきも見ます。
モデル側も、測定位置を節点番号ではなく実物上の寸法や座標で指定します。メッシュを変えると節点位置が変わるため、たまたま最も近い節点の値を毎回拾うと、比較位置まで変わるからです。節点平均化の有無、要素内の出力位置、面の表裏、主ひずみなのか軸方向ひずみなのかも確認します。応力評価では、メッシュを細かくしても上がり続ける局所ピークがあり得ます。応力集中と特異点の記事の見方を、実測位置の周辺にも当てはめます。ただし、試験で測れない局所最大応力を「実測で証明した」とは書きません。
モデルを変えるときは、原因仮説と版を残す

量、位置、荷重、支持をそろえても差が残れば、材料特性、製作寸法、接触の摩擦、ボルトの初期状態、モデルの簡略化、要素とメッシュを一つずつ見直します。材料のヤング率を変えるなら、材料試験や規格値、温度など、その変更を裏付けるものが必要です。「試験値に近づいたから」という理由だけで入力を変えると、別の荷重ケースで外れるモデルを作れます。
変更前後で、差がどう変わるかを同じ比較位置と荷重条件で記録します。一度に複数の仮定を変えると、どの変更が効いたか切り分けにくくなります。調整に用いた試験ケースと、調整後に確かめる別のケースを分けられるなら、なおよいでしょう。NASAのモデル妥当性に関する検討は、ある試験条件での一致が、他の設計条件や使用条件までモデルを一般に保証するわけではないと警告しています(NASA技術報告)。
この作業では、計算を設定どおりに解けているかと、実物の挙動を目的に足る精度で表せているかも分けます。メッシュ感度の確認、外力と反力の釣り合い、簡易計算との照合は前者の確認材料です。実測との比較は後者に関係しますが、一点の一致だけで十分とは言えません。ASMEの固体力学向けV&V規格は、検証・妥当性確認・不確かさを別々の検討事項として扱っています(ASME V&V 10)。
比較結果をどう書けば、次の設計に使えるか
「試験と概ね一致した」では、次に図面や治具が変わったとき、何を再確認すべきか分かりません。報告書では、少なくとも三つを分けて書きます。
- 比較条件:[試験体・図面版]を[治具・締付け状態]で支持し、[荷重位置・方向・範囲]を与えた。[測定位置と方向]の[変位/ひずみ]を、対応する解析出力と比べた。
- 比較結果:[荷重範囲]における差を[絶対差/相対差]で示し、繰返し測定を行った場合はそのばらつきも示し、解析側の確認事項を添えた。
- 適用範囲と次の確認:[試験で確認していない状態]への適用は未確認。差の候補は[仮説]であり、[次の確認方法・担当]を残した。
差を示すときは、絶対差か相対差か、分母をどちらにしたかも明らかにします。ゼロに近い値へ一律に「誤差率」を使うと、割合だけが大きく見えることがあります。繰返し測定を行った場合はそのばらつきを示し、計測器の精度と解析のメッシュ感度も併記して、数字の桁数に見合う結論にします。許容する差を試験結果に合わせて後付けせず、目的とリスクに応じた受入基準を事前に定めます。NASAのモデリング規格も、受入基準をプロジェクトが定義する考え方を示しています(NASA-STD-7009B)。報告書の残し方は構造解析報告書の記事につながります。
試験を行っていない案件なら「実測と一致した」とは書けません。その場合は、反力、単純化した手計算、既知の解、メッシュ感度などで解析を点検し、実物に対する妥当性は別途確認が必要と区別します。前段の点検順は線形静解析の結果を検証する記事も参考になります。
CAEと実測の差は、どちらか片方の「間違い」を直ちに示すものではありません。比べるものをそろえ、全体から局所へ進み、実物とモデルの違いを一つずつ説明する。そこまでできて初めて、モデルを直すべきか、試験方法を見直すべきか、差を残したまま用途を限定すべきかを判断できます。
工房もののほんでは、このような試験条件と解析結果の関係を、読者が追える技術記事・資料へ整理しています。制作範囲はサービス資料を、個別の相談はお問い合わせをご覧ください。
注意:本稿は照合手順の一般論です。試験規格、契約要求、安全性に関わる合否、計測器の校正や妥当性判断については、対象製品の手順と担当技術者の判断を優先してください。
参考資料(一次情報)
- ASME, V&V 10 — Standard for Verification and Validation in Computational Solid Mechanics:https://www.asme.org/codes-standards/find-codes-standards/standard-for-verification-and-validation-in-computational-solid-mechanics
- NASA, NASA-STD-7009B — Standard for Models and Simulations:https://standards.nasa.gov/node/263
- NASA, Test-Analysis Correlation of the Single Stringer Bending Tests:https://ntrs.nasa.gov/citations/20120014455
- NASA, Longitudinally Jointed Edge-wise Compression Honeycomb Composite Sandwich Coupon Testing and FE Analysis:https://ntrs.nasa.gov/citations/20130009099
- NASA, Assessment of Technologies for the Space Shuttle External Tank Thermal Protection System and Recommendations for Technology Improvement — Part 2: Structural Analysis Technologies and Modeling Practices(NASA/TM-2004-213256):https://ntrs.nasa.gov/citations/20040129726
- Autodesk, Reactions results:https://help.autodesk.com/cloudhelp/ENU/Fusion-Simulate/files/SIM-REACTION-FORCE-VIEW-CONCEPT.htm
- HBK, Measurement Accuracy in Experimental Stress Analysis:https://www.hbkworld.com/en/knowledge/resource-center/articles/measurement-uncertainty-experimental-stress-analysis1
- NI, Measuring Strain with Strain Gages:https://www.ni.com/getting-started/set-up-hardware/data-acquisition/i/strain-gages
