CAEの荷重条件はどう決める?|使用場面から荷重ケースを組み立てる

CAEの荷重条件を使用場面から整理する記事の表紙図

「最大で何Nをかければいいですか」。解析に入るとき、まず聞きたくなる数字です。数値が分かれば荷重欄を埋められます。ただ、同じ力でも、どこに、どちら向きに、何を介して加わるかでブラケットの曲がり方は変わります。ある運転状態の最大値と、別の作業状態の最大値を全部足しても、実機に存在しない状態を計算しているだけかもしれません。

荷重ケースを決めるには、設計上、確かめるべき使用場面を解析条件へ翻訳する必要があります。本稿では荷重ケースを、使用場面ごとの荷重と支持状態を対応づけた評価単位として扱います。壁にボルトで取り付けたL字ブラケットを一貫した例に、その翻訳の順番を考えます。以下は条件整理のための仮想例で、強度判定の実例ではありません。

主な対象は、小変形・線形弾性を仮定し、動的影響を無視できる静的な構造解析です。衝撃、振動、繰返し荷重による疲労、接触状態が変わる締結部の詳細評価は、この静解析の手順だけでは完結しません(Autodesk「Static stress study」)。

目次

荷重値を尋ねる前に、何を判定するか

ブラケットの腕先端が許容変位を超えないか。それとも曲げ部の応力が設計基準内か。取付ボルトの荷重を知りたいのか。問いが違えば、必要な荷重ケースもモデルの作り方も変わります。たとえば取付ボルトを省いたブラケット単体のモデルで、腕の変位を比較することはできても、ボルトの強度を判定したことにはなりません。

荷重ケースには、力だけでなく支持の状態も関わります。Autodesk Fusionも荷重ケースを荷重と拘束の組として説明しています(Autodesk「Load case」)。

解析依頼の先頭には、次の内容を一文で記します。

[使用場面]で、[対象部位]の[評価量]を、[図面・仕様・規格などで定めた基準]と比較し、[設計上の判断]を行う。

「応力を見たい」だけでは、何を荷重ケースに含め、どの結果を採用するかが決まりません。安全率や荷重係数は、適用規格、契約要求、社内基準と設計責任者の判断から案件ごとに定めます。ここで一律の数値は挙げません。

使用場面を、時間の順に並べる

図面には寸法があっても、その部品がいつ、どのように力を受けるかは書かれていないことがあります。搬入・輸送、設置、通常使用、停止・点検、取り外しと順に並べ、各場面で「何がブラケットに残っているか」「誰がどこを触るか」「取付状態が変わるか」を確かめます。すべてを解析するためではありません。判定に関係する場面と、今回の解析から外す場面を明確にするためです。

架空のブラケットでは、腕の先に機器が取り付くと仮定します。機器を付けたままの通常時には、その重量が下向きに働きます。横向きの力が運転中にも加わるなら、重量と横力は同時に存在します。一方、機器を外した後の保守作業で上向きの力を加えるなら、「機器の重量と上向きの作業力を常に同時に受ける」とは限りません。そもそも横力や作業力が発生するかどうかは、現物の使われ方を確認してから採否を決めます。

この段階では要求仕様書に加え、組立図、取扱説明、作業手順、機器の質量情報、試験記録、現場の観察を確認します。営業資料に載った「耐荷重」だけでは、作用方向、作用位置、使用頻度、取付先まで分からない場合があります。分からない箇所は推測値で埋めず、確認先と担当を残します。

使用場面から力の経路、解析入力、判定量へと荷重条件を決める順序の図
図1|使用場面から荷重条件を決めるまでの順序。

同じ力でも「作用位置・方向・伝わる面」が違う

使用場面を選んだら、ブラケットと、そこへ力を渡す機器を分けて自由物体図を描きます。外力がどこから入り、腕、曲げ部、取付部を通って壁へ抜けるかを追います。シリーズ第4回「CAEの拘束条件はどう決める?」では力の出口を扱いました。ここで決めるのは主に入口側です。ただし、取り外しなどで支持状態まで変わる場面は、拘束条件も合わせて見直します。

力の大きさと併せて、次の五点を確認します。

  • 作用位置:先端、中央、取付面の近くでは、取付部までの距離が違う。
  • 方向と符号:下向き、上向き、左右、ねじる向きは、それぞれ別の変形を生む。
  • 作用範囲:面で押すのか、ボルトや治具を介して伝わるのか。一点への入力は実物の接触面の代わりか。
  • 時間的な関係:重力は常時か。横力は通常時にもあるか。作業力が加わるとき機器は残っているか。
  • 荷重の根拠:質量から求めたのか、測定値なのか、仕様上の要求値なのか。上限と通常値は同じか。

たとえば先端へ下向きの力を加えれば、取付部まわりの曲げを考える必要があります。力の大きさを同じにして作用位置を取付部へ近づければ、曲げモーメントの腕の長さは変わります。横向きにすれば、形状や作用位置によってはねじれが目立つかもしれません。したがって、最大の力の数値が、各部位にとって最も厳しい荷重ケースとは限りません。各ケースで変形・応力の全体分布と新たな高応力部を確認したうえで、判定する部位の評価量をケース間で比較します。

CAEへの入力では、力、圧力、モーメント、リモート荷重などの表現を目的に応じて選びます。圧力は面積当たりの力なので、選んだ面に作用する圧力を方向も含めて積分し、合力と基準点まわりのモーメントが意図と合うかを確かめます。モデル外の機器が離れた位置から力を伝えるなら、作用点と接続面を明示できるリモート荷重が候補です。偏心によるモーメントも確認します。ただし機能名だけで実物の荷重分布が再現されるわけではありません(Autodesk「Structural loads」、「Remote force loads」)。

同じ大きさの力でも作用位置と方向でブラケットの負担が変わることを示す図
図2|同じ合力でも、作用点と向きで確認すべき結果が変わる。

荷重を組み合わせる前に、同時に起こるかを確かめる

ケースを作るときに危ないのは、各資料の「最大」を機械的に足すことです。機器を載せているときの重量と、機器を外した後の点検作業で生じる上向きの力は、同時には作用しないかもしれません。逆に、運転中の重量と横力が同時なら、片方ずつの計算だけでは見落とします。

ただし、規格、契約、社内基準が保守的な荷重の組合せを要求する場合は、そのルールに従います。実際の使用場面から作ったケースと、規定に基づく設計用ケースを表の中で区別し、組合せの根拠と係数を残します。

次の三つは、架空のブラケットを検討するためのケース候補です。記号は管理用であり、荷重値や製品仕様を示しません。各条件が起こり得るかを現場と設計資料で確定させてから解析します。

LC-01|機器を付けた通常の静置状態

機器重量とブラケット自重が働きます。腕先端の変位と曲げ部の応力を確認します。機器の質量・重心・取付位置が未確認なら、まず確定させます。

LC-02R/LC-02L|運転中に横力が生じる場合

LC-01の条件に右向き・左向きの横力を別々に加えます。ねじれと指定部位の応力・変位を確認します。横力の発生源と時間変化、静的近似の妥当性、重量との同時性が検討の前提です。

LC-03|機器を外した保守作業

上向きの作業力が加わるなら、別の場面として扱います。機器重量は除きますが、ブラケット自重は残ります。腕や取付部の変形・応力を確認する前に、作業姿勢、力の作用点、機器や支持の残り方を確かめます。

架空のL字ブラケットの通常状態、横力を重ねる運転状態、機器を外した保守状態の荷重ケースを区別した図
図3|架空の例。横力の有無や保守中の作業力は実機確認後に採否を決める。

LC-02の左右を一つの「横力最大値」に丸めないのは、ブラケットの形状や取り付け方が左右対称とは限らないからです。LC-03は作業実態がなければ採用しませんし、作業中にブラケットの一部を取り外すなら、荷重だけ変更したLC-01の複製では足りません。ケース名は、使われ方と支持状態を追える名前にします。

線形弾性で、形状・材料・拘束・接触状態が同じままなら、荷重ケースの応答を線形に重ねられる場合があります。ただし、計算上重ねられることと、実機で同時に起こることは別の判断です。また、各ケースの最大ミーゼス応力の数値を足すことと、応力成分を適切に組み合わせて評価することも違います。接触の開閉、すべり、塑性、大きな変形などで剛性や境界が変わる場合は、単純な重ね合わせが成り立ちません(Abaqus「Linear analyses versus nonlinear analyses」)。

自重と外部機器の重量を二度入れない

重量を扱うときは、モデルに入れた部品と省いた部品の境界を確認します。ブラケットの材料密度を設定し、重力を有効にすれば、ブラケット自体の自重が荷重になります。同じ自重を先端荷重へ含めれば二重計上です。逆に、先端の機器を形状・質量ともモデルから省いたなら、ブラケットの重力だけでは機器の重量が抜けます。機器の質量と重心に加え、ブラケットへの取付面や機器のほかの支持先も確認し、ブラケットへ渡る力を見積もって別に与えます。

質量を力へ換算する際は単位も確かめます。kgの数値をそのままNの欄へ入れない。質量から求めた重量と、仕様書に記された許容荷重や試験荷重を、同じ「荷重」の列に理由なく混ぜない。入力値は、元データ、換算、モデル上の表現までたどれるようにします。

単純な線形静解析だけでは済まない場面を、倍率で片づけない

装置の起動・停止で振動する、物が衝突する、荷重が繰り返される、ボルト締結面が浮く。これらは「通常荷重に何倍か掛けた静解析」で、現象そのものを確認したことにはなりません。等価な静的荷重を使う場合も、その値や倍率の根拠と、何を近似したのかが必要です。Autodeskの静解析の説明も、過渡・慣性効果を倍率で置くなら結果の確かさはその仮定に依存すると注意しています(Static stress study)。

まず、その場面の評価が設計上必要かを決めます。必要なら、静的な近似で判断に足りるかを検討します。衝撃・振動には適切な動解析、繰返し荷重には疲労評価、接触が変わる場合にはその非線形性を扱う解析や試験が選択肢になります。見逃せない現象を、静解析の前提の外へ放置しないことが肝心です。

ケース表は、解析前と解析後で同じものを使う

解析条件を決めた会議の記憶は、結果が出る頃には曖昧になりがちです。ケース表を設計者と解析者の間で共有し、「その条件は実物で起こるか」を確認します。以下は案件ごとに埋める最小形です。判断に使った仕様や図面の版を残すと、設計変更後にも追跡できます。

項目記入欄
ケースID・使用場面LC-[ ]/[設置・運転・停止・保守など。機器の有無も記入]
判定する部位・量・基準[ ]の[変位/応力など]を[文書番号・版・許容値]と比較
荷重の出所と同時性[質量・仕様・測定などの出典]/[何と同時に起こるか・起こらないか]
入力の位置・方向・分布[取付図の位置、座標系、向き、面積、合力・モーメント]
モデル外の部品と自重[モデル内で重力を与える部品]/[等価荷重で表す部品]
支持・接触の状態[拘束・接触の仮定、前ケースからの変更点]
未確認事項と確認担当[実機・資料で確認すること/担当/期限]
計算後の点検・判定[反力と変形、比較位置、結果、採否・保留の理由]

計算後は、力と反力の成分、同じ基準点まわりのモーメント、変形の方向をケースごとに確認します。合力が合っても、作用面の選択や荷重経路が実機に合う証明にはなりません。荷重点直近の局所最大応力を採る場合は、荷重の分布とメッシュ依存性も点検します。シリーズ第1回「線形静解析の結果を検証する方法」、第2回「最大応力が収束しないとき」が、その点検の続きになります。

報告書には、採用したケースだけでなく、検討して採用しなかった場面と理由も簡潔に残します。「保守中の上向き荷重は作業手順上発生しないことを確認した」なら、後から作業方法が変わったときに再検討が必要だと分かります。未確認のまま除外したものを「発生しない」と書いてはいけません。報告書全体で条件と判断を結ぶ方法は、シリーズ第3回「構造解析の解析報告書に何を書く?」で扱いました。

まとめ|「最大何Nか」の前に、どの場面かを聞く

荷重ケースを決める順番は、設計判断を一文にする、使用場面を並べる、力の入口と出口を描く、同時に起こる荷重を組にする、解析手法の適用範囲を確かめる、です。ケース表に値を入力するのはその後です。

最大の力だけを選んでも、厳しい場所や方向を拾えるとは限りません。逆に、あり得ない最大値を全部足しても、必要な場面を検証したことにはなりません。「その荷重は、いつ、どこから、何と一緒に加わるのか」。この問いに答えられる荷重ケースなら、解析結果を設計判断へつなげやすくなります。

荷重条件や適用範囲を、読み手が追える技術資料・記事に整理したい場合は、サービス資料をご覧ください。案件固有の公開範囲を含むご相談は、お問い合わせから承ります。

注意:本記事は荷重ケースの一般的な検討方法を示すもので、個別製品の安全性を判定するものではありません。安全上重要な部品や規制対象製品では、適用規格、契約要求、社内の設計・品質手順を優先してください。

参考資料

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