応力コンターと最大値を貼っただけでは、設計判断に使える解析報告書にはなりません。読み手が知りたいのは、その値が「どの版の形状を、どの条件で評価した結果か」「要求を満たすのか」「どこまで信用してよいか」です。
たとえば取付ブラケットの板厚変更を決めるなら、最大応力の数値だけでは足りません。図面の版、荷重の根拠、評価位置をそろえて初めて、変更前後を比べられます。荷重の出典が不明なまま許容値を下回っても、それを承認の根拠にはしにくいでしょう。
報告書は解析者の作業記録であると同時に、設計者や確認者が判断の根拠をたどるための文書です。担当者が替わった後も条件を追えるよう、本記事では記載内容を判断・証拠・再現の3層に分け、空欄式の記載例を示します。結果を採用する前の確認項目は、シリーズ第1回の線形静解析の結果を検証する方法で詳しく扱いました。
解析報告書は「判断・証拠・再現」の3層で組み立てる

| 層 | 読み手が知りたいこと | 主な記載内容 |
|---|---|---|
| 判断層 | 結局、要求を満たすのか | 結論、判定、推奨対応、残るリスク |
| 証拠層 | その結論を何で支えるのか | 条件図、主要結果、比較、考察、適用限界 |
| 再現層 | 後から同じ条件を追えるか | モデル版、材料出典、メッシュ、ソフト版、改訂履歴 |
報告書を解析手順どおりに並べると、重要な結論が後ろに埋もれます。先頭の1ページで判断に必要な要点を示し、後段に証拠と再現情報を置くと、読む人が必要な深さまでたどれます。この3層は本記事で使う整理方法であり、規格で定められた分類ではありません。
先頭の1ページで判断の要点を伝える

冒頭の要約には、次の6項目を収めます。
- 目的:何を決めるための解析か
- 対象と版:部品・アセンブリ名、図面番号、CADや仕様の改訂
- 判定:適合、不適合、条件付き適合、または判定保留
- 主要結果:判定に直結する評価量、許容値、余裕
- 限界・不確かさ:結果の使える範囲、未確認事項
- 次の対応:設計変更、追加解析、試験、承認など
「条件付き適合」とするなら、満たすべき条件と確認する担当者を明記します。判定に必要な根拠そのものが不足している場合は保留とし、「何がそろえば判断できるか」を書きます。
1ページ要約の記載例(空欄式)
図面Rev.[ ]の[対象名]について、荷重ケースLC-[ ]に対する[評価部位]の[評価量]を評価した。判定基準は[文書番号・改訂・条項]で、判定は[適合/不適合/条件付き適合/保留]とした。
主要結果は[結果と単位]、許容値は[値と単位]。余裕は[定義式]で算出し、[値]となった。この判断は[線形弾性、温度範囲、接触状態など]を前提とし、[疲労、衝撃、座屈、締結部すべりなど]は対象外とした。次の対応は[ ]である。
1. 目的・対象範囲・判定基準を結果より先に書く
目的は「応力を確認する」では不足します。「この解析で何を決めるのか」まで記載します。対象範囲には、評価する部品、荷重ケース、破損モードと、扱わない現象を明示します。
判定基準は、結果を見てから選ぶのではなく原則として解析前に定めます。基準の名称だけでなく、文書番号、改訂、条項、許容値、安全率・余裕の定義まで残します。複数基準がある場合は、どれを優先したかも書きます。
| 項目 | 空欄式の記載例 |
|---|---|
| 設計判断 | [量産可否/板厚変更要否/試験移行可否]を判断する |
| 評価対象 | [図面番号] Rev.[ ]、[部位・構成] |
| 対象現象 | [静的強度/剛性/座屈など] |
| 対象外 | [疲労、衝撃、残留応力など] |
| 判定基準 | [文書番号・改訂・条項]、[許容値]、[余裕の式] |
2. モデル化と前提は「何を変えたか・なぜか・影響」で残す
実形状と解析モデルは同じではありません。微小フィレットの除去、穴やねじの省略、対称条件、ソリッドからシェルへの置換、締結部の簡略化などを一覧化します。各項目には、変更理由と結果への想定影響を添えます。
モデルの記録には、対象部品とアセンブリ構成、CAD・図面の版、使用単位、座標系、要素表現、線形/非線形、幾何学的非線形の有無を含めます。「簡略化した」で終わらず、「局所応力は評価対象外になる」「全体剛性への影響は小さいと判断した」のように、判断可能な言葉にします。
3. 材料物性は値だけでなく出典と適用条件を書く
ヤング率、ポアソン比、密度、降伏強さなど、解析と判定に使った値を表にします。出典は材料データシート、規格、試験成績書、社内DBなどを特定し、版や取得日も残します。温度、材料方向、熱処理、板厚、ひずみ速度によって値が変わる場合は、今回の条件に適用できる理由が必要です。
| 物性 | 採用値・単位 | 出典・版 | 適用条件/補間 | 採用理由 |
|---|---|---|---|---|
| ヤング率 | [ ] | [ ] | [温度、方向] | [ ] |
| ポアソン比 | [ ] | [ ] | [ ] | [ ] |
| 降伏強さ | [ ] | [ ] | [材質、処理、板厚] | [ ] |
4. 荷重・拘束・接触は図と表を対にする
荷重条件は大きさだけでは再現できません。作用位置、方向、分布、時間またはステップ、組合せ、係数、座標系、根拠を荷重ケースごとに記載します。自由物体図を付け、解析モデル上の矢印と対応させると、荷重の抜けや二重計上を見つけやすくなります。
拘束条件には、対象面・点、拘束自由度、物理的な支持との対応、採用理由を記載します。完全固定は便利ですが、実機より剛性を高く見積もることがあります。リモート拘束や対称条件も、どの運動を抑えたかを明示します。
接触は、接触ペア、接触形式、摩擦係数と出典、初期すきま、締付け・予圧、接触剛性などの主要設定を残します。解析後には、意図した面が接触しているか、過大な食込みや想定外の開離がないかを確認します。
5. メッシュは「細かさ」ではなく判定値の安定性を示す
要素タイプ、次数、定式化、全体サイズ、局所細分化、要素数、品質指標を記載します。画像には、細分化部位と評価部位が分かる全体図・拡大図を用意します。
メッシュ収束は、要素数を増やした事実ではなく、判定に使う量がどの程度変化したかで示します。変位、同じ方法で抽出した応力、ひずみエネルギーなど、評価目的に合う指標と許容変化率を事前に決めます。鋭角、点荷重、完全固定端に生じる特異応力は、細分化しても最大値が収束しない場合があります。そのときは最大値を合否に直結させず、評価する物理位置、出力・平均化方法、断面での代表値など、代わりに採用する量と理由を明記します。
あわせて、ソルバー名と版、解析設定、収束判定、警告・エラー、その処置を記録します。「計算が終了した」ことと「正しく解けた」ことは同じではありません。
最大応力がメッシュを細かくするほど上がる場合の切り分けは、シリーズ第2回の応力集中と応力特異点の見分け方にまとめています。
6. VerificationとValidationを分けて確認する
Verification(検証)には、解析コード自体の検証と、案件ごとの解の検証があります。ここで主に扱うのは後者です。設定した数理モデルを十分正しく解けているか、反力と荷重のつり合い、変形モード、簡易計算との比較、メッシュ収束、反復収束、警告内容などを確認します。
Validation(妥当性確認)は、そのモデルが今回の利用目的に対して現実を十分に表しているかの確認です。実機や代表試験体の計測結果などと比較し、比較量、条件差、許容差、結果を示します。類似モデルの計算結果と一致するだけでは、実物に対する妥当性を確認したことにはなりません。ソルバーの収束もValidationの代わりにはなりません。
今回の利用目的に対する妥当性確認を行っていない場合は、「妥当性確認済み」と書かず、未実施の範囲、代替して確認した内容、結果の利用制限、今後必要な確認を明記します。
7. 結果・考察・判定を分けて書く
結果は計算で得た値や分布、考察はその解釈、判定は基準との比較です。この3つを分けると、解析者の推測が計算結果そのものとして読まれるのを防げます。
| 荷重ケース | 評価部位・量 | 結果 | 許容値 | 余裕/安全率 | 判定 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| LC-[ ] | [ ] | [ ] | [ ] | [定義と値] | [ ] | [ ] |
コンター図には、結果種別、成分、単位、荷重ケース、ステップ/時刻、座標系、最大・最小位置、節点平均化の有無、変形表示倍率、凡例範囲を付けます。自動スケールの色だけで比較せず、比較図では凡例範囲をそろえます。局所ピークを採用しない場合も、消すのではなく発生理由と判定への扱いを説明します。
8. 限界・不確かさ・残るリスクを結論の近くに置く
解析には必ず適用範囲があります。材料ばらつき、荷重推定、摩擦、境界の剛性、形状公差、モデル簡略化、数値誤差などを挙げ、判定への影響を定量または定性的に示します。感度解析を行った場合は、変更した入力、範囲、結果変化を記録します。
定量化できない場合も空欄にせず、「現時点で定量化できない」「安全側か不明」「この判断には使用しない」と明記します。基準未達、前提逸脱、未解決の警告がある状態で結果を使うなら、誰がどの根拠で残留リスクを受容したかを残します。
9. モデル・結果・報告書を改訂履歴で結ぶ

要求から判定へ、判定から根拠へ。どちらの向きにもたどれるようにします。報告書には、解析モデル名、入力ファイル、結果データ、ソフトウェア版、実行日、作成者・確認者、保管場所を記載します。ファイル名だけでなく、一意な版番号や管理番号を使います。
| Rev. | 日付 | 変更内容 | 変更理由 | 解析への影響 | 作成/確認 |
|---|---|---|---|---|---|
| [ ] | [ ] | [ ] | [ ] | [再解析要否・影響範囲] | [ ] |
ソフトウェアの自動レポートは、選択した設定や結果を定型的に出力する資料として有用です。ただし、出力対象を選べる機能もあるため、必要項目の抜けは別に点検します。前提を採用した理由、判定基準の由来、未確認事項、設計への推奨も自動では決まりません。自動レポートを証拠層の付録とし、判断層は人が書くのが実務的です。ネイティブモデル、入力、ログ、結果データも報告書とひも付けて保管します。
そのまま使える解析報告書の章立て
- 文書情報・承認・改訂履歴
- 1ページ要約(目的、対象版、判定、主要結果、限界、次の対応)
- 目的・対象範囲・判定基準
- 参照文書・入力情報
- 形状・モデル化・前提
- 材料物性と出典
- 荷重・拘束・接触
- メッシュ・解析設定
- Verification/Validation
- 結果・考察・判定
- 限界・不確かさ・残留リスク
- 結論・推奨対応
- 再現情報・添付資料
すべての案件で同じ分量が必要なわけではありません。ただし、省略した項目は「該当なし」「未実施」「別文書参照」のどれかを明示します。空欄のままにしないことが、レビュー時の誤解を減らします。
まとめ
設計判断に使える解析報告書は、きれいなコンター図より先に、何を決める解析か、どの根拠で判定したか、どこまで信用できるかを示します。判断層・証拠層・再現層の順に組み立てれば、管理者は結論を素早く確認でき、設計者は根拠を検証でき、将来の担当者は解析を追跡できます。
解析報告書の構成や図表について、案件固有の条件に合わせた整理が必要なら、お問い合わせからご相談ください。対応できる範囲を確認してご案内します。記事制作・技術監修の内容、進め方、料金はサービス資料で確認できます。
注意:本記事は一般的な構造解析報告書の作成方法を示すものです。安全・法規・認証に関わる案件では、適用される法令、規格、契約要求、組織の品質手順を優先してください。
参考資料
- NASA, NASA-STD-7009B: Standard for Models and Simulations, 2024-03-05. NASAのモデリング・シミュレーション向け標準であり、一般の製造業にそのまま義務付けられるものではありません。
- ASME, V&V 10 — Standard for Verification and Validation in Computational Solid Mechanics, 2019(R2025).
- Ansys, Using Adaptive Convergence.
- COMSOL, Reports and Presentations.
- Dassault Systèmes, Generating a report of postprocessing results.
