CAEの安全率は何を基準に見る?|材料強度・許容値・判定条件を分ける

CAEの安全率を材料強度・許容値・判定条件に分ける図

Fusionの安全率表示が緑色だった。それを見て「この部品は安全です」と報告書に書きたくなる瞬間があります。しかし、緑色は設定された上下の表示しきい値の間にある、という画面上の情報です。製品に必要な安全率を、その色が決めてくれるわけではありません。Fusionの既定しきい値は変更できますし、業界や用途ごとの要求値をメーカーが代わりに指定することもできません(Autodesk「安全率のしきい値」)。

問うべきことは「安全率はいくつか」の前に四つあります。どの荷重ケースか。何を壊れ方の基準にしたか。どの応力を分母にしたか。いくつ以上なら設計上よいと、誰が何を根拠に決めたか。 これらを混ぜると、安全率の数字だけが一人歩きします。

本稿でも、壁にボルトで取り付けた架空のL字ブラケットを使います。実機の解析結果は示しません。数値入りの強度判定例を作る代わりに、解析結果を受け取ってから設計判断に至るまでの確認欄を組み立てます。

目次

画面の安全率と、要求される安全率は別の数字

ここで例にするAutodesk Fusionの安全率表示は、選択した材料強度を対応する計算上の応力で割った値です。既定の降伏基準では、降伏強度 ÷ ミーゼス相当応力で算出します。延性材料で降伏を考えるときの一つの組合せです。Fusionには、最大引張強度と最大主応力を用いる設定もあり、脆性材料の引張破壊を評価する場合に適することがあります。ただし、脆性材料は引張側と圧縮側の強度が異なる場合があり、圧縮側の限界は別に確認します(Ansys「Maximum Tensile Stress Safety Tool」)。これはFusionの計算例であって、すべての解析ソフトや破損形態に共通する定義ではありません(Autodesk「安全率の計算」)。

これに対して要求安全率または設計係数は、設計として最低限確保したい値です。適用規格、契約仕様、顧客要求、社内基準、故障時の影響などから定めます。計算結果として得られた安全率と、要求する設計係数を同じ言葉で呼ばないようにします(Autodesk「Safety factor terminology」)。

仮に要求が「採用する基準強度を設計係数で割った許容応力以下」であるなら、同じ材料強度・同じ応力指標・同じ評価部位と位置・同じ荷重の扱いを前提に、次の二通りは対応します。

解析で採用した応力 ≦ 基準強度 ÷ 要求設計係数
または、解析で得た安全率 ≧ 要求設計係数

ただし、これは説明用に単純化した式です。適用規格が荷重側へ係数を掛ける、部位ごとに異なる許容値を使う、溶接部を別基準で判定するなど、実際の判定方法は一律ではありません。荷重係数と材料側の係数を理由なく二重に掛けたり、異なる基準強度で作った二つの安全率を並べたりしないため、どの文書の、どの式と荷重の組合せを使ったかを記します。

CAE画面に表示される計算上の安全率と、設計側が定める要求係数や許容値を区別する図
図1|計算上の安全率と設計上の判定基準を混同しない。

降伏強度を使うか、別の限界を使うか

先に決めるのは「安全率の計算ボタン」ではなく、何を避けたい設計なのかです。使用後も永久変形を残さないことが要求なら、延性金属の降伏を一つの基準として検討できます。破断を避ける評価、所定の変位以内に保つ評価、座屈を避ける評価は、同じ一つのミーゼス応力比で済みません。

架空のブラケットで、腕の先端が大きくたわむと取り付けた機器が周囲に触れるとします。この場合、応力の安全率が要求を満たしても、先端変位の基準を超えれば設計上は問題です。また、取付ボルトを省いた完全固定モデルの結果から、ボルトの強度まで合格とすることはできません。モデルに含まない部品の限界は、別の評価です。支持の省略が何を評価できなくするかは、拘束条件の記事でも扱いました。

繰返し荷重を受けるなら、静解析の降伏強度比が十分に大きくても、疲労の検討は残ります。衝撃、腐食による減肉、材料特性のばらつきも無視できない場合があります。これらを「安全率を少し大きくしておけば全部解決」と処理しないことです。静的な安全率に含めた影響と、別途評価する影響を分けます(Autodesk「Factors to consider when choosing a design safety factor」)。

どの応力を採るかで、判定は変わる

次に、画面に現れた応力をどの位置で採用するかを確認します。ここで「モデル全体の最大値」だけをコピーすると、荷重点や完全固定面の縁に出た、モデル化による局所ピークを部品全体の強度値として扱うおそれがあります。点荷重、鋭い角、理想的な固定などが作る応力特異点では、メッシュを細かくしても局所最大値が上がり続けることがあります(Ansys「Assessing stress singularity」)。

だからといって、都合の悪い赤い部分を自動的に「特異点」と呼んで捨ててはいけません。実際のフィレット、穴、接触部に生じる応力集中かもしれません。荷重の入力方法、形状、支持、材料、メッシュを見直し、評価すべき部位と比較位置を固定して結果の変化を確かめます。Autodeskは、メッシュ収束を異なる場所に移動する最大応力だけで判定しないよう注意しています(Autodesk「Mesh convergence」)。この切り分けは、応力集中と応力特異点の記事に詳しく書きました。

「固定面から何ミリ離せば正しい」という共通値もありません。評価位置をずらした理由、そこが設計上の破損位置とどう関係するか、除外した局所値をどう扱うかを、図と文章で残します。局所的な値を採らない場合も、無かったことにするのではなく、採否の理由を書くのが解析報告です。

ブラケットを判定するなら、確認項目をそろえる

以下は実在製品の合否判定ではなく、解析レビューで確認する7項目です。数値を先に埋めるのではなく、判定条件と出典をそろえます。図2は7項目を4段階に要約する補助図であり、詳細な解析記録の代わりではありません。

  • 何を避けるか:通常使用時の永久変形、先端干渉、取付部の破損など。一つの安全率が何の合否を示すのかを決める。
  • 判定する部位と量:曲げ部のミーゼス応力、腕先端の変位、別評価するボルト荷重など。全体最大値で別部位まで代用しない。
  • 材料と基準強度:材料記号、材料の規格や証明書、採用した降伏強度、温度条件。ソフトの材料ライブラリ値が実機の保証値とは限らない。
  • 荷重ケース:通常時、逆向き荷重、保守時などのIDと同時性。厳しい場面の取り落としを防ぐ。
  • 許容値と要求係数:文書番号・版、荷重側と材料側の係数の扱い。画面色と合否を混同しない。
  • 結果の採用方法:評価位置、平均化の扱い、メッシュ確認、除外値と理由。数字を再現・レビューできるようにする。
  • 判定と残件:適合/不適合/保留、別試験や追加解析、担当者。未確認の条件を「合格」に紛れ込ませない。
目的・基準・結果・判断の4段階で安全率判定を整理する空欄付きの図
図2|安全率だけでなく、条件と判定根拠を残すための確認票。

特に荷重ケースは、安全率の計算より前の仕事です。同じブラケットでも、重さが加わる通常時と、機器を外した保守作業は同じケースではありません。荷重条件の記事で整理した「いつ、どこから、何と一緒に力が加わるか」を、ケースID付きで引き継ぎます。どのケースで、どの位置の何を判定したかが追えなければ、最小安全率だけを報告しても判断できません。

「適合」「不適合」「保留」を使い分ける

必要な条件と判定方法が定まり、解析の入力と結果の整合も確認できた。そのうえで要求を満たすなら「この条件、この部位、この判定基準に対して適合」と書けます。製品全体の安全性を無条件に保証する表現へ広げないようにします。

妥当性を確認したモデルで要求に達しなければ、不適合です。実機や仕様の根拠なく、解析結果を「適合」に寄せるためだけに前提を変えないでください。入力やモデル化に誤りの根拠が見つかったときは、修正理由と変更前後の結果を残して再解析します。一方、局所ピークの解釈、材料強度の出典、実機の支持、荷重の発生頻度が未確認なら、見かけの数字が十分でも保留が適切な場合があります。保留は判断の放棄ではありません。確認すべき情報、担当、期限、判定へ戻る条件を明示した状態です。

数値が微妙なときほど、結果の信頼性を確かめる順番が効きます。単位、変形方向、反力、メッシュ、簡易計算との照合は線形静解析の結果を検証する記事にまとめています。判定条件と残件を社内に渡す記載方法は、構造解析報告書の記事につながります。

安全率は結論ではなく、結論へ至る途中の数字

安全率は便利な指標です。ただし、分子の材料強度、分母の応力、要求する係数、比較した荷重ケースがそろって初めて意味を持ちます。報告書の判定欄には、安全率だけを転記せず、対象の荷重ケース・評価部位・材料強度とその出典・要求係数を一緒に残してください。読み返した人が、同じ条件で判定を再現できる書き方にします。

工房もののほんでは、このような条件と判断の筋道を、技術者以外にも追える記事や資料へ整理しています。制作範囲はサービス資料で確認できます。個別案件の公開範囲を含む相談はお問い合わせからどうぞ。

注意:本稿は一般的な読み解き方です。安全上重要な部品や規制対象製品の合否、疲労・座屈・溶接部・接触部などの最終評価では、適用規格、契約要求、社内手順、担当技術者の判定を優先してください。

参考資料(一次情報)

  • URLをコピーしました!
目次